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・臨死!! 江古田ちゃん 第9話
・モブサイコ100 U 第5話「不和 〜選択〜」
・風が強く吹いている 第23話「それは風の中に」
・ケムリクサ 第12話
・異世界かるてっと 第4話「邂逅!くらすめいと」
・からかい上手の高木さん[第2期] 第11話「歩数/花火/お土産/約束」
・リラックマとカオルさん 第1話「花見」
・この音とまれ! 第16話「二人の時間」
・バビロン 第2話「標的」
・ゲゲゲの鬼太郎[第6期] 第72話「妖怪いやみの色ボケ大作戦」
ルール
・2019年1月1日〜12月31日までに放送されたTVアニメ(再放送を除く)から選定。
・1作品につき上限1話。
・順位は付けない。
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【ご報告】
「話数単位10選」も開始10年目――。目標としていた節目に無事たどり着くことができました。これも毎年企画を楽しんでくださる皆様のおかげです。本当にありがとうございます。突然ではありますが、このタイミングを区切りとして、新米小僧は本企画から離れたいと思います。そこで今回の【各話コメント】は例年とは少し書き方を変えて、10年間の振り返りも織り交ぜつつ書き進めていきます。
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【各話コメント】
・臨死!! 江古田ちゃん 第9話
(脚本:浦畑達彦/監督:高橋丈夫/演出:北村充基/総作画監督:伊集院いづろ)
僕が「話数単位10選」と出会ったのは2010年の年末、「カトゆー家断絶」に紹介されていたkarimikarimiさんの10選記事が最初だった。それを初めて目にした時の衝撃は、今でもはっきりと覚えている。まさに全身の血液が逆流するような感覚に襲われた。自分の求めていたものが、突然目の前に現出したような……。その後の10年間を決定づけた、忘れられない瞬間だった。
12人のベテラン監督たちが各話担当制でそれぞれの江古田ちゃんを描き出す――。演出家の個性が鮮明に分かれる本作は、同時に10選の選出に挑戦しがいのある作品でもある。ずいぶん悩んだ末、第9話を選出することにした。一人称アニメの手法で描かれるコールセンター内のドタバタは、テレオペ経験者の自分から見ても、適度なデフォルメとリアル感のバランスが絶妙で、思わず笑ってしまう秀逸さだった。
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・モブサイコ100 U 第5話「不和 〜選択〜」
(脚本:瀬古浩司/絵コンテ・演出・作画監督:伍柏諭)
過去の10選を振り返ってみると選出作品のタイプはほぼ二つに分けられる。@「初見の段階で10選入りが確定する話数」。A「何度も繰り返し視聴することで、選定リストに時間をかけて加わっていく話数」。数ある候補作の中から、自分にとって一番納得のいくラインナップを見つけていく作業は、毎年本当に大変だった。「簡単に選ぶことは容易く、真剣に選ぶことは難しい」。その事実を身をもって痛感した。
『モブサイコ100 U』第5話は@のタイプに属するエピソード。ずしりと重いドラマ部分の要素とビジュアル面の圧倒的な熱量が融合し、シリーズ屈指の傑作回に仕上がっていた。霊幻新隆の苦い感傷に迫った、第7話の展開も忘れ難い。
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・風が強く吹いている 第23話「それは風の中に」
(脚本:瀬古浩司/絵コンテ・演出:野村和也/作画監督:千葉崇洋、他7名)
2016年1月に「話数単位10選」のイベントを開催した。司会にアニメ評論家の藤津亮太さん、出演者に僕の尊敬するアニメファンの方々をお呼びして、満員の会場の中で10選について語り合った。今にして思えば、よくそんな大それたことを実行したなあと冷や汗がでる。まったく勢いというものは恐ろしい。でも、あのタイミングを逃したらもう開催することはできなかった。思い切って決断をして本当に良かった。関係者の皆さん、観客席にいた皆様、その節はお世話になりました。
『風が強く吹いている』は大好きな作品で、10選に選ぶとすれば最終回だろうと思う。ただ、シーン単位で僕が最も心動かされたのは、ハイジが区間エントリーを皆に伝える場面だ(第18話「そして朝」)。このシーンを観たとき、イベントの座組を考えていた時のことを少し思い出した。未知の決戦に挑む前の期待と不安と高揚感――。当時の感覚が甦り、懐かしく思った。
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・ケムリクサ 第12話
(脚本・コンテ・演出:たつき/作画:原田優、村田良典、冨澤瞬)
10選企画を続けて一番驚いたことは、参加サイトの数が安定して推移したことだった。僕の当初の予想では「ブログも減少傾向だし、10年も経てば企画自体も落ち着いて、自然とフェードアウトする時期を迎えるかも……」と考えていたのだが、現実は全然違った。企画に参加するためにブログを開設する方、海外からの参加者、そして近年では業界の方からの言及も増えてきた。「継続は力なり」というか、改めてこの企画の持つポテンシャルの高さを実感した。つくづく発案者のmike_nekoさんは凄い方だと思う。
かつて宮崎駿は「創造的人生の持ち時間は10年」という台詞を自作に登場させた。シリーズ中盤以降、加速度的に魅力を深めていく作品世界に触れて「たつき監督にとって今がまさに“創造的人生”の真っ只中なのだろう」と強く思った。2019年のTVアニメ体験として『ケムリクサ』はとても印象深い作品だった。
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・異世界かるてっと 第4話「邂逅!くらすめいと」
(脚本・演出・動画コンテ:芦名みのる/絵コンテ・総作画監督:たけはらみのる/作画監督:ぽんで)
リスト制作委員会のフルタイムメンバーとして仕事をしていた時期、芦名みのる率いる「スタジオぷYUKAI」のアニメーションに触れる機会が多くあった。TV・劇場・OVA・配信と多岐にわたる媒体で発表される、コミカルかつポイントを押さえたショートアニメの数々。特にパッケージソフトの特典映像調査(という業務がその職場にはあった)では、何度も遭遇するスタッフクレジットに親しみさえ覚えた。
『異世界かるてっと』放送開始の報を聞いて「ぷYUKAIの積み重ねてきた仕事がここに結実するのか!」と個人的に相当盛り上がった。見た目の軽さとは裏腹に、作り手の力量が随所に感じられる作品だったと思う。今回の10選には、主人公同士の交流が見せ場となる、第4話を選出した。
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・からかい上手の高木さん[第2期] 第11話「歩数/花火/お土産/約束」
(脚本:加藤還一/絵コンテ:岩岡夢子、桜井弘明、小俣真一、大地丙太郎/演出:松村樹里亜/総作画監督:諏訪壮大)
10選記事の発表時期については毎年葛藤があった。僕が一参加者だったら、12月31日に更新していると思う。少なくとも今期の最終回を見届けてから選定を終える。企画の周知、宣伝、そして何より大晦日に控える怒涛の集計作業のことを考えると、早めに更新せざるを得なかった。それに関連する痛恨事もある。それは2014年の『SHIROBAKO』第12話「えくそだす・クリスマス」を選び逃したこと。もし「話数単位で選ぶ、2010年代TVアニメ10選」という企画があれば、必ず選出したい程の傑作回なだけに残念だった。
『高木さん[第2期]』第11話は、二人の関係の進展を描いた好編だ。特にDパートの臨場感、感情の揺れ、約束を交わした後のお互いの表情等は素晴らしく、本シリーズ中でも白眉ともいえる出来栄えだった。
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・リラックマとカオルさん 第1話「花見」
(脚本:荻上直子/ディレクター:小林雅仁/チーフアニメーター:峰岸裕和)
「話数単位10選」を来年以降も続けようとしたとき――興味のある方にはぜひ続けてほしい――配信作品の扱いを一度見直す必要があると思う。一応現状のルールでは対象外となっていて、僕自身も積極的な選出は控えてきた。ただし今後「TVアニメ」という枠組みだけでは対応しきれない作品が増えていくだろうし、同じアニメーションである限り、対象範囲は広く設定しておいたほうがよいだろう。「1作品につき上限1話」という最も大切な肝さえ押さえておけば、長持ちする企画だとも思う。
日本の人形アニメ史に興味のある自分にとって、本作の第1話はどうしても10選に入れたいと強く思わせてくれるものだった。大ベテラン・峰岸裕和を筆頭に、僕も一時期お世話になった「アート・アニメーションのちいさな学校」の卒業生の方もスタッフリストに名前を連ねていた。「技術はこうやって受け継がれていくのだな」と感じて胸が熱くなった。
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・この音とまれ! 第16話「二人の時間」
(脚本:久尾歩/絵コンテ:坂本龍典/演出:奥野浩行/作画監督:梶浦紳一郎、奥野浩行)
回を追うごとに目が離せなくなっていった本作からは、第16話を挙げておきたい。特に教室で話す武蔵と真白の姿を見て、思いっきり気後れしてしまう来栖妃呂の姿が良い。本話における妃呂の言動はそのすべてが良くて、その都度僕の胸を打つものだった。凄い作画や尖った演出があるわけでもなく、ただ彼ら彼女らのドラマを真正面から追っていく。そんな本作の雰囲気を好ましく感じた。
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・バビロン 第2話「標的」
(脚本:坂本美南香/絵コンテ・演出:富井ななせ/作画監督:久保光寿)
「10選の集計が三度の飯よりも好きな新米小僧さん」と昔あるところで書かれたことがある。これは厳密にいえば間違い。僕は企画のまとめを「集計」ではなく「リスト作り」と捉えている。アニメファンそれぞれに趣味嗜好は違っていて、順位付けをすることにあまり意味があるとは思えない。「投票集計」と銘打って順位を出すことにしたのは、企画感を出して「話数単位10選」を続けるための苦肉の策だったのだ。
とはいえ、結果的に毎年「集計」をしているわけだから「今年はどのエピソードが1位になるんだろう?」と気にならないわけではない。個人的には『亜人』に登場した名悪役・佐藤に匹敵する存在感を備えた、曲世愛(本話では平松絵見子)が2019年のトップをさらっていったら痛快だなと思っている。「富井ななせとは一体何者なのか?」という疑問とともに、記憶しておきたい一篇だ。
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・ゲゲゲの鬼太郎[第6期] 第72話「妖怪いやみの色ボケ大作戦」
(脚本:井上亜樹子/絵コンテ:地岡公俊/演出:野呂彩芳/作画監督:市川吉幸)
ある日の晩、お世話になった恩師から数か月ぶりに電話があった。ひさしぶりに耳にするその声は少し疲れた様子で、互いの近況や仕事に関する会話を、ぽつりぽつりと続けた。そして話題が『ゲゲゲの鬼太郎[第6期]』第72話に及ぶとぐっとトーンが上がり、野呂彩芳さんのアフレコ現場での奮闘ぶりについてなど、熱く語っていただいた。その名調子を聞きながら「自分は凄い方の下で仕事をしていたんだな」と改めて思った。自分とアニメーションの関係は変化を迎える時期に来たけれど、アニメファンだけは大切に続けていこうと、その時固く心に決めた。
その恩師の名は、原口正宏という。
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